漫画業界がオワコンなことを赤裸々に綴った佐藤秀峰著「漫画貧乏」

漫画業界の実情を”漫画家の視点”で書いた「漫画貧乏」という作品を読んだので感想のメモ。

描けば描くほどほど貧乏になる一般の漫画家

『ブラックジャックによろしく』『海猿』などのヒット作を生み出した漫画家の佐藤秀峰さん「漫画を書くと貧乏になる!」という驚くべき実態についてカミングアウトしたのが本作『漫画貧乏』です。

個人が趣味で書いているような漫画ではなく、漫画で生計を立てているような”プロ”の漫画家なら当然、「漫画を描けばそれだけ儲かる」ものだと思っていましたが、そうではないと知り愕然としました。

漫画雑誌に掲載されているような作品は、週刊連載であれば1話20ページ前後になり、3カ月に1冊のペースで単行本が出せるようになります。

本体価格500円で販売する漫画だと、

  • 100万部印刷する場合は1冊当たりの制作費(原価)が130円、利益が3億8500万円
  • 5万部印刷する場合は150円、利益1825万円
  • 1万部印刷する場合は230円、利益285万円

となり、1万部以下は利益が少ないのでそもそも発行されないそうです。

たくさん売れればそれだけ利益が増えるのですが、100万部売れるようなヒット作は発行作品のうち1%にも満たない狭き門であり、また、仮に100万部売れたとしても漫画家の元にはほとんど還元されず貧乏なままだとか。

なぜ100万部売れるようなヒット作を描いても漫画家が貧乏なのかというと、利益は全額出版社のものになるからだそうです。

いちおう漫画が売れればそれだけ印税収入が漫画家の元には入るのですが、印税率は漫画単行本の場合は通常10%。

500円の漫画なら1冊売れるごとに50円が漫画家の印税収入になります。

それ以外にも出版社からは原稿料として1ページ当たり3万円程度もらえるらしいですが、これは掲載雑誌への貢献度や人気度によって上下します。

漫画家はこれらの収入を使って

  • アシスタントを雇ったり
  • 事務所を借りたり
  • 画材を購入したりする

のですが、『ブラックジャックによろしく』『海猿』などのヒット作を生み出した作家でさえ、漫画を描いても描いても出費が収入を上回り、「描けば描くほど貧乏になる」という負のスパイラルに陥るそうです。

その結果、「漫画家って儲かんねーじゃん!」とやめていく漫画家や、アルバイトをしながら細々とした生活を余儀なくされる漫画家が多いそうです。

なんというブラック業界!

「誰もが成功できるわけではない」と言ってしまえばそれまでですが、漫画雑誌への掲載という狭き門を潜り抜けた先に待っているのがこんなに辛い現実だったと知りビックリしました。

これは漫画家に限った話ではなく、漫画家から背景画像の制作を依頼されたりする外部スタッフやアシスタントの方たちも同じ、いや、もっと過酷な状況になるそうです。

「バイトした方がマシ。」な現場が多く、好きことを仕事にするのがいかに大変なのかを物語っていますね。

出版社の横柄な態度

昨年から今年にかけて、漫画作品の海賊版サイトや著作権侵害サイトのことが話題になり、出版業界からは「海賊版サイトのせいで漫画の売上が落ちている!」みたいな意見が出されていました。

しかし漫画貧乏を読む限りでは、出版社側が勝手に自滅したように感じられます。

理由としては、出版社側が「漫画家を大事にしていないから」です。

漫画貧乏は

  • 漫画の編集者はクソ野郎ばかり!
  • 出版社はブラック企業!

という意見で書かれた本なのでその点を考慮しながら読む必要がありますが、出版社側の態度についても「漫画貧乏」には赤裸々に暴露されています。

それによると…

  • 連載作品の登場人物の名前やセリフが編集部によって無断で改変される
  • 自分の作品の二次使用を無断で出される
  • 頭に来たので連載終了を申し入れるも無視される
  • 漫画賞のノミネートを辞退すると「誰が売ってやったと思ってんだ!」と怒鳴られる
  • 編集部が行った取材を元にして描かれたワンシーンに重大な間違いが見つかり、関係団体から抗議を受けるも「描いたのは漫画家だから」と、責任を押し付けられる
  • 漫画では生活できないので原稿料を上げるように要求するも拒否される
  • ネットで作品を販売したい!との申し出に対し、「ネットで本を売りたいというのは自由だが、書店があなたの作品を置いてくれなくなるかもしれないよ」と妨害工作を匂わせる
  • 漫画が売れなくなると困るのは出版社では?との問いに「漫画が無くなっても、出版社がある限り、私たちは給料をもらえるんですよね」と編集者に言われる

など、編集者ってカスなんだな~。と思わせてくれるエピソードがゴロゴロ詰まってました。箕輪編集室とは大違いです。

漫画貧乏は出版社に対抗する立場で書かれた本なので、その点を考えて読む必要はあります。

しかし「漫画が無くなっても、出版社がある限り、私たちは給料をもらえるんですよね」という言葉や、漫画家を大切にしない態度が本当だった場合、近年の出版不況は「起こるべくして起こった当然の報い」のように感じられました。

著者がとった出版不況への対抗手段

後半からは

  • 出版社は頼りにならない、漫画家・作家のことを守ってはくれない
  • 出版社に頼っている限り貧乏なままだし、作品を作り続けることはできない
  • 出版不況は悪くなるばかり

という状況に対して作者がとった行動がメインになっていますが、これが不況にあえぐ出版社との対比になっていて面白いです。

出版社だけでなく同業の漫画家からも後ろ指をさされる中で、作者がとった行動とは?

続きは「漫画貧乏」でお楽しみください。

  • 実は漫画家になろうと思っている
  • 出版業界で働きたい、出版業界について知りたい
  • 人生を左右するような大事な場面でどう行動するべきか知りたい

という方は一読しておきたい本です。

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